今号は診察室で皆さんからよくいただく質問について、Q&A形式でお答えいたします。
Q1.そもそも血圧て何ですの?
A1.心臓は身体におけるポンプとして血液を全身に送り出しています。この血液が血管(動脈)の壁に与える圧力が血圧です。
Q2.「上の血圧」「下の血圧」とは?
A2.「上の血圧」は「収縮期血圧(最高血圧)」といい、心臓が収縮して(縮んで)血液を全身に送り込んだときに血管にかかる圧力のことです。「下の血圧」とは「拡張期血圧(最低血圧)」といい、心臓が拡張した(拡がった)ときに血管にかかる圧力のことです(心臓が拡張するときは血液は全身には送り出されていません。しかし、動脈には弾力性があるので、心臓が収縮して血液が送り出されたときに血管が拡がり、心臓が拡張しているときには拡がっていた血管が元に戻ることにより圧力が発生します)。
Q3.では高血圧とは?
A3.前号でお話したように、現在は家で測る血圧(家庭血圧)を目安に治療などをすすめています。日本高血圧学会の最新の高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では、家庭血圧の高血圧基準を135/85mmHg以上、正常血圧基準を125/80mmHg未満としています。この間の血圧値も正常血圧とはいえません。また年齢、疾病によって目標値は異なっています。
(1)若年者・中年者 125/80未満
(2)高齢者 135/85未満
(3)糖尿病・慢性腎不全・心筋梗塞後患者 125/75未満
(4)脳血管障害患者 135/85未満
Q4.「上の血圧」と「下の血圧」のどっちが大事?
A4.どっちも大事です。A3で述べたように上下それぞれに目標基準が定められています。比較的若い方では「朝の下の血圧だけが高い」ということが珍しくありません。その場合は「朝の下の高血圧」を何とか下げることを目標に治療を行います。
Q5.高血圧ではしんどくなりますか?
A5.「頭が痛い(あるいは)ふらつく(あるいは)しんどいから血圧を測ったら高かったから心配で病院に来た」という方は少なくありません。しかし、上の血圧が180mmHg程度ではまず自覚症状はないといっていいでしょう。もちろん普段の血圧が非常に低い方ではないとは言い切れませんが、通常血圧が高いことが自覚症状の「原因」ではなく、しんどいなどの自覚症状の「結果」血圧が上がっていることが大部分です。その証拠に、診察室での血圧がしんどかったときと同じ血圧でも何も症状がないことがしばしばあります。本当にふらふらになってまともに歩けない血圧は少なくとも上が200、下が100mmHgを超えています。したがって、一般的には180/100mmHgまでで、しかもそれが一時的なものであれば余り心配は要りません。心配し続けるほうがいつまでも下がりません。むしろふらつきなどは血圧が低すぎることが原因のことが多いようです。
Q6.しんどくないんやったら何で治療せなあかんの?
A6.糖尿病や高脂血症なども含めて生活習慣病といわれるものの治療の目標は、ズバリ「動脈硬化の予防」です。動脈硬化の先には脳卒中、心筋梗塞などの怖い病気が待っています(別に待ってていらんけど)。とくに高血圧は生活習慣病の中でも動脈硬化進展の中心的役割を果たしています。例えば糖尿病の中でも、血圧が高いほど脳梗塞や心筋梗塞になりやすいことが最近の研究で明らかになっています。また血圧の高い人は将来新たに糖尿病になりやすいことも分かっています。
Q7.高血圧の原因は?
A7.高血圧の9割程度は原因が不明であり「本態性高血圧」と呼ばれています。遺伝的な要素が関与しており、家系的に血圧の高い人がいること(“家族歴がある”といいます)が多いようです(私「血のつながった人で高い人はいますか?」患者さん「うちの旦那のお父さんが高いです」私「・・・・・」)。確かに体質は遺伝するので高血圧になりやすいとはいえますが、ストレスなどの環境や生活習慣が高血圧の発症や血圧の程度に大きな影響を与えます。一方、明らかな原因があり、その結果高血圧になっている場合を「二次性高血圧」といいます。その原因としては、主に副腎(腎臓の上にありホルモン調節を司っている臓器)に血圧を上げるホルモンを過剰に作り出す腫瘍ができた場合、腎不全、腎臓にいく動脈が狭い場合、睡眠時無呼吸症候群(夜中に息が止まる病気。ひどいいびきや、日中たまらなく眠くなる場合も要注意)などがあります。二次性高血圧の場合は、基本的に元の病気を治療すれば血圧は正常に戻ります。したがって、当院では血圧が高いと初めて診察に来られた場合、とくに高血圧の家族歴がないときには二次性高血圧の有無を必ず調べます。
Q8.どんなことが血圧に関係しますか?
A8.まず知っておくべき大事なことは「血圧はたえず変動する(1日中同じ血圧はあり得ない)」ということです。そしてその変動の範囲は血圧が正常の人でも1日の中で40mmHg程度はあり、高血圧の人ではその差はもっと大きいということです。例えば上の血圧の平均が120mmHgの人であれば100から140mmHg程度の範囲で血圧は動いているということです。元々高い人であれば100から160mmHg程度あるいはそれ以上の範囲で動くことも珍しいことではありません。例えば、興奮や緊張、イライラ、疲労、寝不足など広い意味での心身のストレスは血圧を上げます。診察室で必ず上がる方もいらっしゃいます(これを「白衣高血圧」といいます)。逆に精神的にリラックスした状態、入浴後、適度なアルコールや運動後には血圧は下がります。
Q9.右と左で血圧が違うねんけど、どっちで測ったらええのん?
A9. 20mmHg以内の左右差は正常です。それ以上の差は低いほうの動脈が狭いなどの異常がある可能性があります。いつもどちらかが高ければ高いほうの腕で測ります。バラツキがない場合はいつも同じ腕で、原則的には利き腕でない方の腕で測るようにしてください。