Part 1では不整脈とはそもそも何か、どんな症状があるか、自分の脈のとり方などについて、Part 2では不整脈の種類と検査についてお話ししました。今回はシリーズ最終回Part 3として、不整脈の治療についていつものようにQ&A形式でお話します。
Q10. 不整脈と名がつけばすべて治療しなければいけないのでしょうか?
A10. 治療をするかどうかは次の二つの原則から考えます。
I.生命に関わるかどうか?
II.日常生活活動(ADL)に支障があるかどうか?
Iの原則に当てはまる場合に治療をするのは言うまでもありません。IIは言い換えれば自覚症状がどれほどその人の生活の邪魔をしているかということであり、同じ不整脈であっても個人差があります。すなわち、どんだけしんどいかはその人にしか分かりません。したがって、治療をするかどうか、あるいはどういう治療法を選択するかは原則的にご本人に決めていただくことになります。
以上の原則を満たす不整脈は実はそれほど多くはありません。つまり不整脈と聞いてすぐにエライこっちゃと心配することは少ないといえます。
Q11. 治療にはどんな種類がありますか?
A11. 次のような治療法があります。
1.おくすり
・発作時のみ服用(屯用)/一時的に服用/ずっと服用
・「遅い」不整脈以外が対象になります。言い換えれば「遅い」不整脈はお薬では治りません。
2.カテーテルアブレーション
・カテーテルという管を手足の血管を通して心臓に入れて、不整脈発生の原因となっている心臓の部位を焼く治療です。入院が必要となります。
・おもに「速い」不整脈と「乱れる」不整脈が対象になります。ときに「飛ぶ」不整脈に対して行われることもあります。
3.ペースメーカー植込み術
・「遅い」不整脈が対象になります。Part 1,2でお話したように、「遅い」不整脈では心臓内の電気の流れが遅かったり、滞ったりなどの問題があります。ペースメーカーはそれらの異常な電気の流れを補う働きがあります。決して心臓のポンプとしての働きを強めたりするものではなく、これを入れているから心臓は絶対止まらないということはありません(たまに「心臓が強くなったのでこれで止まらない」と思っている方がおられます。いつか必ず止まります)。
・鎖骨の下の静脈を通して心臓に線(リード)を1-2本入れ、先端は心臓の筋肉内で固定されます。もう一方の先端を、胸の皮下に入れた小さな電池とつなぎます。電池は、心臓の電気の流れを絶えず監視し(センシング)、異常があれば心臓に電気刺激を行います(ペーシング)。一般的に5-6年で電池のみの交換が必要です。
4.その他
・不整脈の原因が心臓以外にある場合(甲状腺機能異常、貧血、心因性など)はそれぞれの疾患に応じた治療を行います。
・心筋梗塞や心筋症など心臓のポンプ機能が低下して不整脈が生じている場合は、原疾患の治療が重要になります。
次に不整脈のタイプ別に治療法を見ていきましょう。
Q12.「飛ぶ」不整脈(=期外収縮)の治療法は?
A12. 多くの場合は自覚症状がなく、その場合は基本的に治療の必要はありません。但し、心臓疾患がある場合は突然死を予防する目的で自覚症状の有無に関わらず治療することもあります。自覚症状がある場合は、A10で述べた治療原則Ⅱに従いお薬で治療します。期外収縮は一度出ると続けて出やすくなるという電気的性質があるため、お薬でその悪循環を断ち切ってやることで比較的短期間のみの服用で済む場合が多くみられます。治療抵抗性(=難治性)の場合カテーテルアブレーションの適応になることも稀にあります。
Q13. 「速い」不整脈の治療法は?
A13.「速い」不整脈の中で多いのは「発作性上室性頻拍」と呼ばれるものです。これは突然脈拍が140以上になりますので、自覚症状のない人はいません。以前はお薬で上手に付き合うことしかなかったのですが、最近はカテーテルアブレーションの技術が進歩し、治療の第一選択となってきました。95%以上の確率で完治が期待できます。但し、症状の激しい割に生命の危険性はないため、入院が無理な場合やカテーテルによる合併症が怖い場合はお薬で調節します。服用方法は、活動度、不整脈発作の頻度や持続時間などから個々人ごとに決定していきます。
Q14. 「乱れる」不整脈(=心房細動)の治療法は?
A14. 心房細動の問題点は、1)頻脈になりやすい(高齢者の急性心不全の原因になりやすい)、2)脳梗塞になりやすいことの二点です。1)についてはお薬で調節します。2)について、心房細動が原因の場合は大きな脳梗塞になることが多く、生命予後が不良であり、たとえ命は助かっても重大な後遺症が残ることが問題になります。また心房細動の中で脳梗塞を起こしやすいグループがあることが分かっています(心不全、高血圧、糖尿病、75歳以上、脳梗塞の既往のある人)。これらの条件を総合的に見て血液をサラサラにするお薬を服用します。これまでワーファリン(バファリンとは違います)というお薬が脳梗塞予防に最も有効であることが知られていましたが、「定期的に採血をしなければいけない」「納豆が食べられない」などの制約がありました。最近ワーファリンと同等の効果を持ち、特別な制約のない新しいお薬が開発されています。またPart 2で述べたように心房細動の中で「発作性」と「持続性」の心房細動はカテーテルアブレーションの適応になります。但し、成功率は80%前後とA13で述べた発作性上室性頻拍よりは劣り、複数回しなければならないケースもあります。
Q15. 「遅い」不整脈の治療法は?
A15. 脈拍が遅い(=徐脈)ことは倦怠感、息切れや頭がボーっとするなどの自覚症状も問題ですが、突然意識を失って倒れて頭を打ったり、あるいは突然死など命に関わる場合があります。したがって、自覚症状を伴う病的な徐脈が見つかった場合はペースメーカーを植え込まなければなりません。上でも述べましたように徐脈を根本的に治療するお薬はありません。
Q16.「AED」とは何ですか?
A16. 最も恐ろしい不整脈は「心室細動」と呼ばれるものです。突然死の約8割は心室細動が原因とされ、急性心筋梗塞や心筋症、ボールなどが胸に当たった時、遺伝などが原因になります。高円宮殿下が心室細動のためにテニス中に急逝されました。心室細動は、心室という血液を送り出す心臓の部屋が痙攣を起こすためにポンプ機能を果たせず、実質的に心臓が止まった状態です。心室細動になった瞬間に意識を失います。直ちに除細動(=電気ショック)を行わないと1分ごとに10%ずつ生存率が低下し、3分で50%が死亡します(たまに「健康診断で心室細動と言われました」という方がおられますが、心房細動の間違いかと思われます。心室細動であれば「あなたは心室細動ですよ」という声を聞く間もなく意識を失い、電気ショックをされているはずです)。AEDは「自動体外式除細動器」のことで、心室細動の際に機器が自動的に解析を行い、必要に応じて除細動を行い(解析の結果心室細動でなければ作動しません)、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器のことです。動作が自動化されており、器械の音声の指示に従えば誰でも問題なく使用出来るようになっています。最近は様々な公共機関に設置されており、当院にも置いています。意識を失った人をみたらまずは救急車を呼びますが、到着までは約7分かかるといわれています。それを待っていては救命は極めて困難になるため、直ちに心臓マッサージを始めると同時にAEDを使用することが重要です。