はーとだより-開院10周年記念講演会-

ごあいさつ
 去る4月11日(土)、私の大学時代の友人二人を招いて当院の開院10周年記念講演会を開催し、当初の予想を大きく上回る160余名の方々にお越しいただきました。アンケート結果から、現在通院中以外の方も約3割おられ(図1)、お陰様で大変盛況な会になりました。講演会についても大半の方にご満足頂いたようであり(図2)、ホッとすると同時に、皆様並びに演者の先生、スタッフに改めて感謝いたします。
今回は臨時増刊号として、今回の講演内容のまとめ、およびいただいたアンケートからいくつか抜粋した皆様の声をお届けいたします。

講演I「脳卒中にならないために」
宇部興産中央病院 脳外科部長 西崎 隆文先生


(1) 脳卒中とは
・ 卒中とは卒然(突然)邪気や邪風に中(あた)るという意味で、卒中風の略とされており中気や中風ともよばれた
・ 年間50-60万人が発症し、12万人が亡くなる
(日本人の死因の第3位)
・ 寝たきり等、要介護者の原因の3割以上を占める
・脳卒中の分類(図3)
・ 近年は心原性脳塞栓が増加している
・ 心原性脳梗塞はおもに「心房細動」という不整脈が原因であり、大きな梗塞になり重大な合併症を起こすことが多い。長嶋茂雄さんや小渕元首相もこの病気で倒れられた

(2) 症状
・ 「FAST」を覚えよう!
Face:顔の麻痺…「イー」ができない
Arm:腕の麻痺…片腕に力が入らない
Speech:言葉の障害…呂律が回らない
Time:発症時刻…症状に気づいたら発症時刻を確認してすぐに119番を
・ その他に、物が二重に見える(複視)、経験したことのない激しい頭痛、立てない・歩けない、など
・ 一過性脳虚血発作(TIA)
症状が一時的(多くは1時間以内、数分間のこともあり)だが脳梗塞の前触れ発作として重要であり、放置すると脳梗塞を引き起こす可能性が高い

(3) 治療
・ 時間との戦い!
  4.5時間以内:t-PAという薬を点滴し、血栓を溶かして脳血流を再開させる
  8時間以内:血管内血栓回収治療
・ t-PAを使用すると使用しなかった時と比べて自立した生活を送れる患者さんが50%増加する。但し使用が遅れると出血などの合併症により症状が悪化する可能性がある

(4) 予防
・ 脳卒中の5大危険因子(+α)
(1) 高血圧
(2) 糖尿病
(3) 脂質異常症
(4) 不整脈(心房細動)
(5) 喫煙
(6) その他:男性、高齢者、肥満、過度の飲酒、運動不足


講演II 「がんについてもっと知ろう」
山口大学医学部付属病院腫瘍センター 准教授 吉野茂文先生


(1)「がん」ってどんな病気
・ 2人に1人ががんに罹り、3人に1人ががんで死亡する
・ 確実に大きくなる病気:倍、倍、倍と増え、大きくな
りだすと短い時間で増大する
・ 大きくなると転移し、転移先で増殖する
・ なぜがんで死亡するのか
1) 臓器不全を引き起こす・・・肝不全、呼吸不全など
2) 免疫能の低下から感染症を併発する・・・肺炎など
3) 癌悪液質:栄養状態悪化、全身衰弱

・ がんの発症要因
1)遺伝子の病気:全体の数%程度
2)環境要因が発症に重要な役割・・・喫煙、飲酒、食物、運動など
3)細菌やウイルス・・・胃がん、子宮頸がん、肝がんなど

(2)がんは早期発見が大事
・ 進行すればするほど生命予後は悪くなる
・ がん検診ガイドライン推奨のまとめ
胃がん/大腸がん/肺がん:40才以上、毎年
乳がん:40才以上、2年に1回
子宮頸がん:20才以上、2年に1回

(3)がんに対する治療
・ 手術、放射線、化学療法
・ 胃がん手術後の5年生存率は、日本70%、アメリカ40%・・・日本の外科医の
・ 手術技術は優秀
・ 定位放射線治療:体に優しいピンポイント照射
・ 山口大学では抗がん剤治療は基本的に外来通院で行っている
・ 切除不能大腸がんの予後は、抗がん剤の開発によりここ10年で1年から2年半に
延長している

(4)その他
・ がん拠点病院ではがんに関する相談、支援を行っている
・ 大阪府下では60病院あり、府立成人病センターが取りまとめ役
・ 堺には4病院:大阪労災病院、市立堺病院、近畿中央胸部疾患センター、ベルランド総合病院

講演III「一体どうしたええの?
~血圧、コレステロール、血糖が高いと言われたら~」  
今井はーとクリニック 院長 今井克次

(1)本当に治療は必要?
・ 昨年4月の日本人間ドック学会が発表した基準範囲は、
何も病気のない「スーパーノーマル」と呼ばれる人たちの
あくまで「現時点での」データ
・ 一方、各疾患の診療指針である「ガイドライン」の治療目
標値は、ある時点から20~30年後の脳梗塞や心筋梗塞
などの発症率から求められたもの
・ したがって、現在スーパーノーマルの人が20年後も元気である保証は全くない
・ すなわち、高血圧、高脂血症、糖尿病との付き合いは長期戦であり、目先のデータに一喜一憂しないことが大切

(2)そもそも何のために治療するのか
・ よっぽど悪くならない限り、基本的に高血圧、高脂血症、糖尿病は自覚症状がない
・ 治療目標は「健康寿命」を延ばすため
・ 健康寿命:日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間のこと
・ 健康寿命を延ばすためには合併症の予防が重要であり、その中でも脳梗塞・心筋梗塞・腎不全などにつながる動脈硬化の進展を少しでも遅らせることが大きな治療目標
・ 動脈硬化には体質が深く関わっており、高血圧、高脂血症、糖尿病があるからと言って必ずしも同じように動脈硬化が進むとは限らない
・ しかし、放っておくと将来の危険性が高まるので定期的なチェックが必要
・ 頸動脈は、脳や心臓の血管など全身の動脈の状態を反映する「全身の動脈の代表選手」
・ したがって、頸動脈エコーは、①動脈硬化の有無、②治療開始の必要性、③治療効果の判定に有用

(3)わたしの診療ポリシー
・ 診療にあたっては常にその目的を忘れない。目的のない無駄な検査はしない。治療は基本的にガイドラインの目標値を目指すが、ガイドラインに捉われて数値を下げることが目的にならないこと(「木を見て森も見る」)
・ 治療の基本は、何と言っても食事・運動療法、体重コントロールであり、お薬の力を借りるのは最後の手段であると心得る(「人間の自然治癒力を信じる」)
・ お薬を始めた後でも、少しでもお薬を減らせないか、やめることができないかを常に考え、決して漫然と投与しない(「クスリはリスク」)
・ 患者さんの立場になり、正面から向き合い、一人一人に合ったきめ細かな診療を心掛ける(「オーダーメイド診療」)
・ 患者さんが少しでも良くなり、不安なく、心穏やかに、そして機嫌よく過ごされることが私の願いである